Catch me if you can








腕の時計を見ると、時刻は深夜というよりも、間もなく朝になる時間だった。
俺はそうっとドアを開けて辺りを見回し、誰にも見られていないことを確認すると、部屋に入る。

ドアの閉まる音が、カチャリと小さく鳴って、それからまた静かになった。


「・・はぁ」

安堵の息を吐くと、電気も点けずにその場に持っていた鞄を放る。
中には授業で使う教科書やノートが入っている。
学校帰りにそのまま仕事に行ったために、いったん理事長室に置いていたものだった。
それはもう数日前のことになるけれど・・。
ここ最近は仕事の方が忙しくて、学生の方は授業に出るのが少し難しい状態になってしまっていた。
今週は選択授業が大半になっていて、そのおかげで授業に出れていなくても、なんとか不自然にならずに済んでいる。


「あ〜疲れたぁ・・」

思わずそんな独り言を言いながら、着ていた制服を脱ぎにかかる。
ネクタイを解いて、ジャケットを椅子の背に掛ける。
本当ならハンガーにきちんと掛けたいところだけれど、疲れ果てた今の自分には、そんなことすら億劫だった。


少し身軽になると、一気に睡魔に襲われた。
ふらふらと、ベッドの方へと歩み寄る。
このまま飛び込んで眠ってしまいたい。

その欲求に逆らえずに、俺はベッドへと身体を投げた。


「・・・・・ん?」

けれど、何かおかしい。
受け止めてくれた柔らかな布団の感触に混じって、何か在る。

俺は恐る恐る、潜った顔を上げると、身体を起こそうと両手をついた。
すると、その手を何かが掴んだ。

「わっ・・・!?」
「よぅ、おかえり」

吃驚して声の方を見ると、そこには布団から顔を覗かせた王様が居た。
薄暗くて、表情はよく見えないものの、その声は確かに王様だった。
一体いつから居たのだろう。全く気がつかなかった・・。

「王様!?どうしてここに!?」
「おまえに会いに」
「え!?・・・っというか、どうやってここに!?」
「あそこから」

王様が指した先には窓があった。

「窓の鍵もかけておかねーと、危ないぞ」
「すみません・・って、そこから入ってきておいて何言ってるんですか!」
「ははは。すまんすまん」

悪びれた様子もなく笑うと、王様は俺を抱き寄せた。

「でも・・やっと捕まえた」

再び布団の中へと沈んだ俺の身体を、その布団ごと抱きしめて、王様が呟いた。
その声はいつもより掠れていて、少し沈んで響いた。

「・・・王様?」
「久しぶり・・・っていうのはいつものことだが・・その、なんでかわかんねぇんだけどよ。
急におまえに会いたくなったんだ」
「・・・・・・・・・・」
「いや・・まぁ、たった数日のことなんだけどよ。それでもおまえのことが気になってな・・」

照れたように早口にそう言うと、王様の俺を抱く腕に力が籠った。
俺はそっと息を吐いて、身体を預ける。

「電話、してくれたらよかったのに・・」
「仕事の邪魔はしたくねぇ」
「だったらメールとか」
「同じだろ」
「あなたからだったら、俺はすぐに会いに行きますよ」
「子供じゃねぇんだ。そんな我侭・・」
「十分、子供ですよ。こんな時間にこんなところで待ってるなんて」
「っ・・・・」

黙ってしまった王様に、俺はくすくす笑うと、埋まっていた顔を上げて王様の顔を覗いた。
拗ねたように横を向いてしまった王様が、ぼんやりと見える。
俺は手を伸ばして、そんな王様の額をぺちんと叩いてやった。

「痛てっ」
「可愛いですね、王様」
「うるせーよ・・」

睨んでみせる王様が本当に可愛くて可愛くて、俺はまた笑ってしまう。
そうしてしばらく笑っていると、いつのまにか体勢をひっくり返されていた。
目の前には天井と、そして怒ってるのか照れてるのか笑ってるのか、そのどれもが混ざったような表情の王様が在った。

「・・もう許さねぇ」
「あはは。あれ・・王様?・・んっ・・・」

少し乱暴に笑い声ごと唇を塞がれると、久しぶりの感覚に胸がつきっと疼いた。
徹夜明けの頭に、熱が満ちてくる。

「っ・・・んっ」

息が苦しくなって、抱き込まれた胸を叩く。
それに気づいたように、いったん離されてから、また深く重ねられる。

まるで余裕が無い様子に、俺は内心で苦笑しながら、王様の背中を抱き返した。

「王・・様・・?一応、俺、疲れてるんですけど・・?」
「だったら・・やめるか?」
「やめる気なんて無いくせに・・」
「まぁ・・俺は子供、だからな?」

勝ち誇ったように、ニッと笑うと、王様は俺の額をぺちっと叩いてみせた。

「痛っ・・・ったく、仕方ない人ですね・・」




せっかく久しぶりに寮に帰って来れたというのに。
明日の授業はまた欠席になりそうだ。











END












Redlizardの竜聖さまから頂きましたv
てっちゃん可愛いv和希も可愛いvv 明日と言わず、明後日も休むといいよ!と思う私です(笑)
竜聖さん、ときめきをありがとうございましたvvv