溢れる、と思った。
焦がれて、求めてやまない気持ちが溢れそうになる。
それとも自分が気付かないだけで、それはとうに溢れていて。
今、心は、からからに乾いているのかもしれない。
乾いているのなら、潤すために必要なのは、彼の人の心。







何故だか突然座り込んでしまった愛しい人のそばに七条は歩み寄る。
嫌われているのは仕方無い。
けれど、拒絶はしないで欲しかった。
ただ、気持ちを伝えたかった。
心の中でそう呟きながら、中嶋の隣に腰を下ろす。
彼は、身じろぎ一つしない。





「中嶋さん」
声をかけても、
「中嶋さん」
返事をしない。





綺麗な顔をかくすようにしている彼の手首は、微かに赤くなっていて、
先程までの、余裕の無い自分を見せ付けられた気分になって、ちょっと困った。



(本当に、嫌がられるのも無理は無い)
自嘲気味にそう思って、ため息を一つつく。




「お尻が冷えますよ?」
気の利いたことが言えずにそんなことを言ってみて、
反応も得られないから、どうしたものかと思い悩む。
だが、思い悩んでも仕方が無いので、本能に任せることにした。





彼の正面に腰を下ろして、
こっそりと、顔を覗き込む。
そのうちどうにも我慢が出来なくなって。
柔らかそうな髪の毛に触れた。





ぴくりと反応をしている彼に、気付かないふりをして。
赤くなっている彼の手首を指でなぞり、
そこを慈しむように、唇で触れた。





やわらかく、やわらかく。
そこから想いが伝わるように、
これ以上、嫌われたりしないように。















戻る          進む